マンション管理会社フロントマン(単にフロントとも言います)の業務内容と待遇について、同業他社の状況も交えて紹介します。
私が勤めているマンション管理会社は中小企業です。
マンション管理新聞に「マンション管理会社受託戸数ランキング」が毎年掲載されており、上位50社にランクインする程度の規模に当たります。
(週刊ダイヤモンドにも同様のランキングが掲載されています。こちらは戸数だけではなく、有資格者数などを加味したランキングです)
待遇の違いや良し悪しは会社によるでしょうし、業界標準かどうかも不明な部分が多いので、あくまで一例だと考えていただければと思います。
この職種への転職を考えている方の参考になれば幸いです。
業務内容
分譲マンション管理会社の仕事は、管理組合との委託契約にもとづく「マンション共用部分の管理」です。
フロントと管理員(管理人)の業務内容は違うことに注意してください。
- 管理員 マンション現地で、日常清掃と来客及び居住者の受付対応をする。
- フロント 管理組合の運営業務のサポートを行う。管理員を指揮する立場。
フロントは1人あたり10~15棟のマンションを担当し、運営に携わります。
管理会社と管理組合、また関わるさまざまな業者の関係についての別記事もどうぞ。
理事会・総会のサポート業務
理事会と総会は管理組合が開催しているものです。
主体は管理組合であることを理解した上で、フロントは会の進行をサポートします。
例えば100戸のマンションであれば、理事会役員は10名前後、総会出席者は50名以上(全員出席することはほぼないです)にもなります。
多数の人の前で案件の説明と応答を行い、時には管理会社への苦情に弁明をすることもあります。
私自身は口下手な方だと思っているので緊張して苦労はしましたが、経験を積むことで慣れました。
- 設営準備 理事会役員とスケジュールを相談して開催日程を調整、会場の予約(マンション内の集会室、町内会会館、貸会議室など)。
- 出欠確認 会の招集通知を配付し、出欠席の集計。通知の提出数が少ない場合には、提出するよう組合員に促す。
- 議案説明 議案の代理説明を行い、また出席者からの質問事項に回答。
年間を通して、管理組合ごとの運営の流れは以下の通りです。
- 理事会(月1回~隔月など不定期) 建物設備の維持保全、会計報告、居住マナー改善など、運営方法について検討するとともに決定事項を執行する。
- 総会(年1回) 組合員に年間の業務報告を行うとともに、新たな規則の制定や次期の運営計画について賛否を問う。
会社で行う事務作業
フロントの業務時間のうち、5割以上は社内で事務作業をしています。
工事・保険・会計の管轄部署が業務分担しているか、データ入力と文書印刷や書類発送などの雑務作業者が別途配置されているかどうかでもフロントの業務量が段違いです。
中小管理会社はこの分担ができていないために、ほぼ全ての作業をフロントが行うことになります。
管理会社は管理組合の業務を代行しています。
工事の発注もお金を動かすことも、管理組合の指示を受けて実行していることです。
また指示を実行に移すためには会社の許可が必要となり、社内回覧書類も多数発生します。
管理組合向けの書類と社内規定書類の作成に膨大な作業量が必要になってしまうのです。
- 議案資料の作成 自社からの提案や理事会の検討事項をもとに、理事会・総会の議案資料を作成。
- 議事録の作成 理事会・総会の議事録作成。作成後は理事会役員の回覧と承認を経て保管。
- 告知文書の作成 居住マナー注意喚起文書、決議事項報告、アンケートなどの文書を作成。
- 収支予算の立案 当期の収支状況(決算)をもとに、次期の予算案を作成。
- 修繕計画の立案 マンション規模、修繕履歴、修繕積立金の額などをもとに修繕予定と修繕積立金改定の案を作成。
- 管理規約改定案作成 法改正・規約ガイドライン改正にもとづく管理規約改正、組合運営状況に沿った管理規約改正案の作成。
- 損害保険業務 保険事故発生時の保険申請、保険契約の見直し。
- 各種報告書確認 設備点検業者の報告書確認、年間の業務報告。
- 組合情報の更新 居住者情報の管理、駐車場など施設の契約と解約の登録。
各種折衝業務など
営業職の経験者ならば対応できるでしょう。
しかし注意すべきなのは居住者とのコミュニケーションです。
共同生活の場では居住者間の問題が起きますし、利害の発生には感情的になる居住者も多いのです。
住民トラブルの仲裁は管理会社の業務ではなく、苦情そのものに管理会社の責任がない場合であっても、管理会社は何らかの対応をせざるを得ないのが実状です。
契約の範囲と住民感情への対処に折り合いをつけて、コミュニケーションを図る必要があります。
- 協力業者対応 修繕・提案工事の見積取得と発注、打ち合わせ、工事の立会い、完了確認。
- 不動産業者対応 売買における仲介不動産からのマンション情報問い合わせ回答。
- 町内会との連絡 町内会費支払い請求書の受領、管理組合との窓口対応。
- 官公庁との折衝 消防署の立ち入り調査対応、法務局での登記事項証明書の取得、道路拡張や区画整理等の測量確認立会い、警察からの捜査協力依頼による防犯カメラ閲覧立会い。
- 巡回点検 マンション巡回による異常の発見や修繕見込み箇所の経過観察。
- 管理員対応 清掃指導、勤怠確認、管理員による居住者対応の処理
- 支払い督促 管理費滞納者への電話連絡による督促。
- 居住者対応 管理会社・管理組合への意見や改善申し入れ、居住者間のトラブルや生活マナー苦情の対応
フロント業務のメリットとデメリット
フロント業務のあり方は、しばしば「個人商店」に例えられます。
お客さんとの折衝を行うために多岐に渡る業務のスケジュールを管理し、多くの事柄を自分の裁量で進めることができます。
しかし、案件(理事会の状況、居住者のクレームの内容や感情のニュアンス)を会社(上司)が把握できないことも多くなります。
把握できても実際に対処するのはフロント自身であり、会社のサポートが望めない場合が多いために、フロントが案件を抱え込んでしまう悪循環が発生しやすくなるのです。
社内の規定変更や処理書類も多く、お客さんと会社との板挟みにもなりがちです。
正確な報告をフロントに求めるとともに、業務の効率化と分担を進めることに会社は注力しています。
顧客サービスの充実と労働環境の改善を会社は常に考えているのですが、理想に追いつかないのが現実なのでしょう。
フロントに求められる知識・スキル
法律家や建築士ほど網羅する必要はないものの、フロント業務には幅広い分野の知識が必要になります。
入社時点で求められるものではなく、業務経験の中で取得していきます。
- 民法
- 区分所有法
- 建築基準法
- 消防法
- 会計の知識
- 建築設備の知識
- PC操作(ワード・エクセル・パワーポイント)
必要・業務に役立つ資格は以下の通りです。
- 普通自動車免許
AT限定で構いませんが、普通自動車免許は必須です。
都心であれば移動が電車中心なので、運転免許不要の企業もあるかもしれません。 - 管理業務主任者
私は管理業務主任者資格を持たずに入社しました。人手不足のため、資格を持っていなくても中小管理会社では採用されます。
ただし管理業務主任者には独占業務があるため、入社後は合格しなければなりません。(中には何年も合格せずに平然としている人もいます) - 宅地建物取引士
宅建士資格は役立つ場面もありますが、業務に必要なものではありません。
しかし資格手当が付き、査定の対象にもなります。不動産業の転職者は多いため、資格持ちも多いです。 - マンション管理士
名称独占資格で資格取得の難易度が管理業務主任者より高いだけであって、業務に必要はありません。
資格手当と査定評価に役立ちます。 - 簿記
会計知識は管理業務主任者の試験範囲程度でも実務上は問題ないのですが、日商簿記3級程度の知識はあった方がよいです。取得していなくても採用されます。
フロントに向いている人
フロントに向いているのはこんな人だと私は思います。
管理会社は不動産業界のサービス業です。
仕事に優先順位をつけてスケジュールを管理し、作業を正確に行えることが理想です。
社会人に求められる能力としては、一般的な表現ではあります。
管理会社の中途採用者には営業職の経験者、とりわけ売買賃貸の仲介不動産の営業経験者が多いです。
管理会社フロントには、一般的な営業職に課せられるほどの売り上げノルマというものはありません。
受注工事の売上目標はありますが、委託契約の継続(自社の管理物件を他社に変更されない)に重きを置かれます。
営業職の経験者からすると、売上に追われない仕事はぬるいと感じるのでしょう。
しかし、継続して同じ住民団体とコミュニケーションを続けなければならないことがキツイ、と言う人もいます。
フロント業務には終わりがありません。
終わりがないのは仕事なら何でもそうだと思うでしょう。
管理組合の運営には1年毎の区切りがありますが、それでもフロントは仕事に区切りを感じないのです。
当然に会社の利益は守りつつ、クレーム産業の中で同じ顧客のために継続した仕事をしなければなりません。
全てを完全にこなそうとするフロントは潰れます。
業務知識などは経験の中で得ることができます。
フロントを続けるためには、精神的な図太さこそが必要なのではないでしょうか。
年収
- 平社員 400万円~
- 主任 500万円~
- 係長 600万円~
- 課長 700万円~
給与テーブルが決まっていれば、昇格に伴った昇給が見込めます。
経験者が同業他社に転職することも多いことから、昇格のペースが早い会社も多いと思われます。
同業他社からの転職者によると、会社規模が小さい前職の方が今より給与は多かった、という人もいれば、会社規模が大きくても前職の方が給与は少なかったという人もいました。
インセンティブと残業代がつくかどうかでも、かなり変わってくるでしょう。
残業
残業まみれですが、さすがに月100時間まではいきません。
いく会社があったらすみません。
繁忙期でなければ20時間以内で済むし、忙しければ50時間でも済まなかったりします。
表向きは20~21時頃になれば退勤しなければならないことにもなっており、早く帰るように会社からは言われます。
仕事が終わらないのに強制的に帰らせられると、早出して仕事をするしかなくなるのですが、早出残業代という概念はないようです。
残業代は一定時間まではつくものの、査定に影響するためにサービス残業が横行します。
その一方で、要領が良い人はあまり残業せずに帰ることができています。
肩代わりできる仕事が少なく作業の分担がしにくいこともあって、人によって残業時間の格差は大きくなりがちです。
なお昇格すると、非常に仕事量が増加します。
主任・係長クラスは割に合わないポジションになりがちです。
最近はコンプライアンス重視の傾向によって、残業時間は減ってきています。
大企業であれば残業代もきっちりつくのでしょうね。
休日
年間休日は120日あります。
有給休暇も一般的な企業と同等に20日付与されます。
有給休暇義務化によって5日は消化できるでしょうが、それ以上となると要領の良い人以外はあまり消化できないでしょう。
大抵の場合、有給休暇は完全消化できずに消滅します。
週休2日で会社としての休日は土・日です。
管理組合の理事会や総会などが土・日にあるために、一か月の内に何日かは土・日に出勤することになります。
休日出勤分を平日に振り替えて休みます。
仕事が回らない場合には振替休日も取れない場合もありますね。
通常でも土・日に休めるのは半分程度でしょうか。
繁忙期なら土・日に休みが無い月もあります。
休日出勤手当になる会社もあるでしょうが、土・日の出勤状況に合わせて、事前に平日の振替休日のスケジュールを組むことになります。
休日を自分である程度コントロールすることもできるので、土・日休みにこだわりがない人であれば働きやすいと感じるかもしれません。
転勤
地方での採用であれば転勤なしも可能ですが、転勤はあるものと思ってください。
ジョブローテーションと称し、人が足りない営業所への転勤はありがちです。
転勤が嫌であれば、地場の中小管理会社の方がよいのかもしれません。
離職率
離職率は高く、年中求人募集をしています。
転職してきて早期に退職する人も多く、他部署の人間が新人の名前を覚える間もなくいなくなってしまうことなどざらで、3年続くとベテラン扱いされます。
同業他社の退職者もよく入社してきますので、業界内での流動性はあります。
未経験での入社は可能か
私は30代のころに業界未経験で入社しました。
未経験入社が大変なのはどこの業界も同じでしょうが、フロントも覚えることが多岐に渡るために私も苦労しました。
中小管理会社では40~50代の未経験者でも採用されることが結構ありますし、一つ一つの仕事は難しくないので、未経験でもやっていけないことはありません。